シルクは真っ向からエヴァディザードを見据えると、気を鎮め、完全に気配を断って、剣を構え直した。獲物に狙いを定める、若い雌豹のように。
それを受け、エヴァディザードもまた、すっと、長刀を下段に構えた。
――下段?
あまり、見ない構えだ。
あえて隙を見せ、誘うのか。だとしたら、読み違い、侮りだ。
シルクはふっと微笑んだ。
斬り込むべく、地を蹴った。
ヒュッ
一呼吸で間合いを詰め、エヴァディザードに襲いかかった。
優美な細身の剣の切っ先が、弧を描く。
けれど、影が交錯した瞬間、シルクは凍りついて動きを止めた。
シルクの間合いを、踏み込んだエヴァディザードがさらに詰めたのだ。その長刀が、ぞくりとした時には、首筋に押し当てられていた。
首を落とすための。
エヴァディザードの構えは、影が交錯した瞬間にも、相手の首を落とすためのものだったのだと。
降伏する猶予も与えず、命を断つ。
そのためのもの。
それは、死をもたらすため、そのためだけに、極められた剣――
剣を、人を護るため修めてきたシルクにとって、覚えた敗北は、信じてきた世界を瓦解させるものだった。
極められた、命を獲りにくる剣に、何かを護るための剣で、立ち向かうことなどできない。敗北より、突きつけられたのは、その事実。
(こんな――)
エヴァディザードの指が、ふいに、シルクの髪を絡めた。
長刀の刃を、喉元に突きつけられたままだ。
シルクはぞくっとして、エヴァディザードを見た。
(まさか、さらうなんて、本気のはず――)
動けないシルクの唇に、エヴァディザードのそれが、触れた。
「っ……!」
長刀を突きつけていた腕が、背中に回って抱き締め、二度目の口付けがシルクを捕らえた。
(――そ、嘘っ……苦しっ……!)
「んんっ!!」
混乱し、小刻みに震えるシルクの腕を、エヴァディザードが引いた。
(えっ……!?)
それは多分、ごく、短い間の出来事だった。
(あ、た、退場……!?)
異様などよめきに、シルクははっと、会場を振り向いた。
合意なしでの行為だと、誰も、深刻に疑う様子はなかった。
「!」
謀られたのだと。
エヴァディザードがあえて、この場所を選んだこと。
どこか、興を帯びた黒曜の瞳が、その事実を肯定していた。