「え……?」
青い瞳を翳らせて、シェーンがふいと顔を背けた。
思わせぶりな態度はいつも、淑女とみれば取る彼ながら(シルクが淑女かどうかは別にして)、エスコートに徹しきれずに目を背けるシェーンなんて、シルクは初めて見たように思った。途惑って、シェーンをうかがった。
たとえ同じセリフを口にしても、いつもの彼なら、微笑んで誘惑にかかるくらいの余裕があるのに。
(どうしたんだろう、シェーン……)
見かねてか、メイヴェルが口を開いた。
「――シルク皇女」
シルクが、メイヴェルを振り向いた、その時だった。
ふいに、背後から抱き締められて、頬を寄せられて、本能的に恐怖を覚えたシルクは、夢中で彼女を捕えたシェーンを振り払った。
「いやっ!」
反射的にシェーンの頬を平手打ちして、青い瞳に痛みが揺れるのを、見た。
どきんとした。
何が起こったのか。
シェーンが何か言いかけて、けれど、何も言わずに、唇を噛んで顔を背けた。
青の瞳に、ほんの一瞬、思いの丈を訴えられた気がした。
――まさか。
会う度に口説かれたけれど、シェーンのそれを本気に取ったことはなかったし、冗談だと、思っていたのに。
シルクがやっと事態を呑み込んだのは、シェーンが耐えかねたように、険のある歩き方で、そこを足早に歩み去った後だった。