前話【P073

「シルク」
 しかめつらをしたシェーンが言った。
「気に入らないな。その言動で、君を恋慕う立場の私がどういう心境になるか、わかるのかい?」
「え……?」
 青い瞳を翳らせて、シェーンがふいと顔を背けた。
 思わせぶりな態度はいつも、淑女とみれば取る彼ながら(シルクが淑女かどうかは別にして)、エスコートに徹しきれずに目を背けるシェーンなんて、シルクは初めて見たように思った。途惑って、シェーンをうかがった。
 たとえ同じセリフを口にしても、いつもの彼なら、微笑んで誘惑にかかるくらいの余裕があるのに。
(どうしたんだろう、シェーン……)
 見かねてか、メイヴェルが口を開いた。
「――シルク皇女」
 シルクが、メイヴェルを振り向いた、その時だった。
 ふいに、背後から抱き締められて、頬を寄せられて、本能的に恐怖を覚えたシルクは、夢中で彼女を捕えたシェーンを振り払った。
「いやっ!」
 反射的にシェーンの頬を平手打ちして、青い瞳に痛みが揺れるのを、見た。
 どきんとした。
 何が起こったのか。
 シェーンが何か言いかけて、けれど、何も言わずに、唇を噛んで顔を背けた。
 青の瞳に、ほんの一瞬、思いの丈を訴えられた気がした。
 ――まさか。
 会う度に口説かれたけれど、シェーンのそれを本気に取ったことはなかったし、冗談だと、思っていたのに。
 シルクがやっと事態を呑み込んだのは、シェーンが耐えかねたように、険のある歩き方で、そこを足早に歩み去った後だった。

≪ 2005.04.15更新 ≫

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【A】どうしよう、傷つけた、――追わなきゃ……!
【C】張り詰めた沈黙を、可愛らしい何かが唐突に、破るだけ破った。『青春、青春だわ…! これが青い春と書いて青春なのね☆ 甘酸っぱい、あんまし食べたくない、まだ熟し切らない果実の味…!』
【D】ちょっと、落ち着こう自分。びっくりしたけど、シェーンに限って、こんな子供に本気になるなんて考えられない。何か変だよ、何か、裏が…?