前話【P054

「シルク、そんなことを聞かれても、試合に出なかった身で、納得行かないなんて言えないだろう? サリにお言い。主催国側の不手際をつついたら、サリがどう釈明してくれるのか、聞いてみたいよ、私は」
 そう言ったシェーンの視線の先に、シグルド王国のサリ王子。
 サリは二人が来るまで、部屋でエヴァディザードと話していた様子に見えた。
 邪魔したのかなと、途惑った。
 場が、やんごとなき人々の博覧会状態だ。そうでなくても、気圧される。
 言葉を継げないでいるシルクに、サリが何と声をかけるでもなく、猫のまねをして顔を洗う仕種をした。
「サ、サリ王子!? なんでここで猫まねなんですかっ!」
 ――うう、似合うんだけどっ! サリ王子、前から、変な人なんだけどっ!
 美貌の猫まね王子は、なお、猫が手をなめる仕種をまねして――フリとはいえ――くすりと微笑み、ミステリアスな瞳でシルクを見た。
 ――あうう、誰にも言ったことないけど、サリが好きだから緊張してたのもあるのに〜っ!
 従兄のサリに、シルクは心密かに憧れてきた。
 サリのどこがいいのかと、若い女性に聞くのは愚問だ。シルクも、サリに魅せられる理由は、その他大勢の女性と変わらない。
 神秘的でたおやかで、それでいながら文武両道に秀でるサリは、シグルド国王秘蔵の王太子だ。
 絶世の美女と謳われたイシス王妃譲りの銀髪(シルバーブロンド)
 ミステリアス・ブルークリスタルの異名を取る、神秘的な蒼の瞳。
 幻想的(ファンタスティック)な美貌を欲しいままにするサリは、存在自体が幻想(ファンタジー)だと言われることさえあった。夢幻境の住人さながら、独特の空気をまとう、不可思議の王子。
「シルク」
 シェーンの言葉を上手に聞き流したサリが、静かに尋ねた。
「エヴァと試合をしたい?」
「……え、……と、試合は……」
 シルクは少し悩んで、
「ほんとのこと言うと、せめて決勝まで残りたいと思って……でも、自分が逆の立場だったら、納得行かないと思うし、こんな無理に、勝ちにしてもらわなくて、いいかな……?」
 フェアだねと、好ましげに微笑んだサリが、優しい口調で言った。
「シルクと違って、エヴァは試合にはさほどこだわっていないが、シルクがよかったら、私のために試合を組ませてもらいたい。主催国責任者の立場上、何かと、人の口があるものだから」
 シルクはこくりと、聞き分けよくうなずいた。

≪ 2005.03.08更新 ≫

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【A】「あの、その代わりに一つだけ、お願いしてもいいですか?」公式でなくてもいいから、メイヴェルと試合をしてみたいのだと、願い出てみた。
【B】「わかりました」笑顔で了承して、早速、時間を尋ねた。この試合を見に来た観客が、表で待っているのを見てきたから、急いだ方がいいと思ったのだ。