サリは二人が来るまで、部屋でエヴァディザードと話していた様子に見えた。
邪魔したのかなと、途惑った。
場が、やんごとなき人々の博覧会状態だ。そうでなくても、気圧される。
言葉を継げないでいるシルクに、サリが何と声をかけるでもなく、猫のまねをして顔を洗う仕種をした。
「サ、サリ王子!? なんでここで猫まねなんですかっ!」
――うう、似合うんだけどっ! サリ王子、前から、変な人なんだけどっ!
美貌の猫まね王子は、なお、猫が手をなめる仕種をまねして――フリとはいえ――くすりと微笑み、ミステリアスな瞳でシルクを見た。
――あうう、誰にも言ったことないけど、サリが好きだから緊張してたのもあるのに〜っ!
従兄のサリに、シルクは心密かに憧れてきた。
サリのどこがいいのかと、若い女性に聞くのは愚問だ。シルクも、サリに魅せられる理由は、その他大勢の女性と変わらない。
神秘的でたおやかで、それでいながら文武両道に秀でるサリは、シグルド国王秘蔵の王太子だ。
絶世の美女と謳われたイシス王妃譲りの銀髪。
ミステリアス・ブルークリスタルの異名を取る、神秘的な蒼の瞳。
幻想的な美貌を欲しいままにするサリは、存在自体が幻想だと言われることさえあった。夢幻境の住人さながら、独特の空気をまとう、不可思議の王子。
「シルク」
シェーンの言葉を上手に聞き流したサリが、静かに尋ねた。
「エヴァと試合をしたい?」
「……え、……と、試合は……」
シルクは少し悩んで、
「ほんとのこと言うと、せめて決勝まで残りたいと思って……でも、自分が逆の立場だったら、納得行かないと思うし、こんな無理に、勝ちにしてもらわなくて、いいかな……?」
フェアだねと、好ましげに微笑んだサリが、優しい口調で言った。
「シルクと違って、エヴァは試合にはさほどこだわっていないが、シルクがよかったら、私のために試合を組ませてもらいたい。主催国責任者の立場上、何かと、人の口があるものだから」
シルクはこくりと、聞き分けよくうなずいた。