3.失望
目次
2001年10月 1997年8月 1999年1月
1999年4月 1999年12月 2000年1月
2001年10月 2001年決行
「宣戦布告も行わず、すなわち、テロリストを匿う卑怯者の国家――」
敵国の報道を見ながら、カディスは面白くもなさそうに笑った。
下らない。
この国は正気かと思う。
戦争をすれば負けるとわかっている国が、戦争をしかけない。
その理由がわからないのか。
戦争になれば負けやしないと確信していながら。
意見が対立すれば、彼らは『戦争』の名のもと武力行使を正当化し、他国の民を虐殺する。
しかし、テロと戦争の罪の重さに、どれほどの違いがあるのか。テロは犯罪で、結果の見えた大量虐殺である戦争は、罪ではないという。
気が狂っている、この国は。
戦争が正当化されるのは、元来、それが兵士のものであったから。その生活を守るため、戦うべき者同士が戦っていたから。
宣戦布告など、支配者が出すもので、受理するのも支配者なのだ。
そして支配者は民間人に、『戦争をしていいか?』などとは聞かない。
戦争は間違いなく兵士達のものであり、民間人のものではないのだ。
だが、現代の戦争は、攻撃対象を選ばない。
核兵器など、その最たるものだ。
彼らはテロを悪だと言うが、同じ武力行使なら戦争の方がはるかに罪が深い。カディスはそう考える。戦争が兵士のものではなくなり、むしろ肝心な支配者こそが、最も安全な場所に守られる、今は。
いよいよ明日、留学という日に。
ティファは幼馴染のセシル、数名の旧友達と一緒に、ハイキングに来ていた。
散々駆け回り、気持ち良く疲れて草っ原に座っていると、セシルが寄ってきて、ちょこんと隣に座った。
「ティファ――、行くのやめない?」
思わず吹き出して、ティファは笑いながら彼女を見た。冗談だと思ったし。
「まさか、やめないよ。やっと苦労して入試も突破したのに、今さらやめないよ」
セシルは不服そうに頬をふくらませた。
「あたし、ティファがいなくなったら寂しいな――。それに、アルカイダも、今の政権も変じゃない? テロとかって、ひどいことしてるみたいだし、学校にも行けなくなるし、最近は外出も随分制限されるのよ」
ティファは少し驚いた。案外、深刻だ。
気付かなかったけど、セシルはあまり、ティファのしていることに賛成ではなかったらしい。
「うん……変なんだけどね。でも、仕方ないよ。ねえ、セシル、覚えてる? 十年前は、空はずっと澄んでいて、風も気持ち良くて、雨もこんなに少なくなかった。誰も、こんなふうには狂っていなかった。よくは覚えてないけど、神の教えを守って、感謝の気持ちを忘れずにいたら、幸せな未来が開ける――そう思える国だったんだ。子供だったからかもしれない。でもさ。父さんも母さんも、大変そうでも幸せに見えたし、僕も、同じようになれれば良かった。頑張ればそうなれる気がしてたんだ」
「……? 空、もっと綺麗だったっけ。あたしは、覚えてないな」
ティファは少し残念そうに笑って、綺麗だったよ、と言った。
「僕もカディスも、それを取り戻したい、守りたいと思うだけ――でも、簡単じゃないんだ。この国から異教徒達を追い出せたら、カディスは元に戻すつもりだよ。だけど今は、結束を固めないといけないから――」
セシルはあまり納得行かない顔で、「ふうん」と気のない返事をした。
「でも、その時にはあたしはもう、若くないよ。学校、行けないわ」
「……」
ティファは何も言えなくて、そうだね、とだけ言った。
「難しいことはわかんない。だけど、あたしはカディスなんて嫌い! ティファを持っていくんだもん。風も空も知らない。今だって、ここに風も空もあるもの。ティファ、いるもの。ここにいてよ」
「――セシル?」
セシルは泣きそうな顔をしていた。
「寂しいもん。行かないで。ティファが敵だって言う人たちが何してるのかわからない。でも、置いて行こうとするのはティファよ! 暮らしにくくするのは政府よ! それはわかるわ!」
「じゃあ――じゃあセシルは、この場所が踏み荒らされてもいいのか! 腐った大地に、酸の雨が降る。人が人を信じない。誰も約束を守らない。快楽を求めるばかりで、思いやりも感謝の気持ちも知らない! そんな国になってもいいのか!」
ティファの剣幕に、セシルはびくりと、怯えた顔でティファを見た。
「セシル、この国は、みんなが守ってきたんだ。あって当たり前の幸せじゃない。守り、維持されてきたんだ。守らなきゃだめだ。こんなにいい世界――台無しにしちゃだめなんだ」
「……怒ってるの……?」
セシルはじっと、目に涙をためてティファを見た。
ティファも、やるせない表情で、セシルを見返した。
「………………怒ってると思う……セシルにじゃない。どうして……うまくないんだ。全然、うまくないんだ。守りたいものを、うまく守れない。何もしないわけにはいかないのに、間違ってるんじゃないかと苛立って……。セシル……セシルは、守りたいもののうちの一つだよ。――セシルのために守りたいんだ。でも……」
その彼女の自由を奪い、悲しませて、何をやっているのか。
未来――。
未来だ。
未来を開きたいのだ。
空が澱んでいくのを止めたい。
止まる風を取り戻したい。
失われる心を、守り育みたい。
「――わかって。君のために守りたいんだ」
苦しい頼みだ。力が足りず、うまくやれない自分を信じてくれ、というのは。
「……ティファは、私のためだと思ってやっているの?」
あまり優しくないセシルの問いに、ティファはただ頷いた。
「――いいわ……。わからないもの、私には。でも、でもね、ティファ。私のためなら、絶対に戻って来てね。ティファのことは信じてる。でも、ティファのいなくなった世界なんて、絶対、私のためじゃないんだから! 帰ってこなかったら、もう、ティファの言うことなんて絶対、何にも信じないからね!」
ティファはちょっとびっくりしてセシルを見た。
セシルって、彼が好きなんだろうか。
「約束……約束する? ティファ、必ず戻って来るって、約束する?」
「……うん、いいよ、約束する」
げんまんすると、セシルは少し嬉しそうに、だけどやはり寂しそうに微笑んだ。
「休みにも戻って来るよ。あのさ、セシル――」
「何?」
「次はアレイゼ・リーラの丘で――」
目を丸くするセシルを見ながら、ティファはちょっと意地悪な気持ちになった。
「セシル、綺麗になってたら、丘に誘うよ」
そう言ってにっこり笑った。
その翌日、ティファはカーマを後にした。
<2001.12.02 更新>
ティファは休暇を利用して、カーマに戻って来ていた。
「……花束?」
「うん」
アレイゼ・リーラの丘で。
ティファに誘われて、寝不足になるほど期待したセシルだったが、ティファに手渡されたのは小さな、野の花を摘んでリボンでとめただけの花束だった。何だか拍子抜けだ。
「……プロポーズじゃないの?」
「うん」
屈託なくうなずくティファ。
「……がっかり」
正直なセシルの言葉に、ティファはくすくす笑った。
「プロポーズなんてできないよ。僕にはまだ、何の力もないんだから。でも、今、一生懸命勉強してる。一人前になって、セシルを守れるようになったら、その時にはちゃんとしたのを贈るよ。今は気持ちだけ」
「気持ち……」
セシルはぱっと赤くなり、ちょっと嬉しそうに花束を見た。白い小さな野の花が、セシルの手の中で揺れている。
「た、楽しみにしてるね」
*
「留学はどうだ?」
カディスが問う。
「大変です。でも、助けてもらいながら、何とかやっています。不思議ですよね。一人一人を見ればいい人たちなのに、どうして集団になると、あんなに恐ろしいことをするんだろう」
「何かあったのか」
あった。
ティファは具体的な説明はせず、感じたことだけを語った。
「あの国は自由で……人を傷つけるのも自由で。罪を犯せば追われるけど、それ自体、追う者と追われる者の駆け引きみたいな感じで……何て言うか……捕まらなければ罪ではないって言うのかな。そんな人ばかりじゃないけど、なぜそれが罪なのか、まるでわかっていない感じのする人が、多くて。いっそ無邪気なくらいで、何だかわからなくなる」
ゆっくりとした深い息の中、カディスはそうか、とだけ頷いた。
「――わからないものを無理にわかる必要はない。毒されるぞ、ティファ。彼らがそうある以上、それは必然だ。だが、大切なのは、おまえ自身がどうありたいかだ。ここを、あんな国にしたいか?」
ティファはじっとカディスを見た。その言葉の説得力と信頼感に、この人はいつも正しいのではと思ってしまう。
「いいえ」
「それが肝心だ。彼らの舌と、無知で無邪気な笑みに騙されるな。彼らの言い訳よりも、彼らがやっていることを見ろ。浅はかな知恵で、自分が正義であると証明しても、何の役にも立たん。どんな理由があれ、快適で豊かな生活を求めた果てに、彼らはここまで星を汚し、狂わせたのだから」
ティファはじっと沈黙した。
「しかしカディス、彼らは存在する。理解し、話し合って行くしかないんじゃないか」
そう思うのならやってみるといいと、カディスはそれだけ言った。それが初めの一歩だからと。
そしてティファはその時初めて、あることに気が付いた。
カディス自身が、己が主張がいかに正しいかと論じるよりも、結果を出し、その結果で証明していく道を――故郷を守るためにできると思うことを、勇敢に、忍耐強く続ける道を歩んできたのだと、気が付いた。
カディスとて、全知全能の神ではない。信じ、必要だと思うことをしているだけなのだ。それが真に正しいことかなど、カディス自身にもわからない。
本当にたいした男だと、敬服した。
理解を進め、話し合えなどと言ったが、おまえが信じることはおまえがやれと言われると、できないのだ。まだまだ半人前だ。
でも、やってみよう。
そうやって、誰しも一人前になるのだろうから。
理解し、話し合うことで変えられると信じている。なら、身近な場所からでも、証明してみせれば良いのだ。
まずは、あの、手に負えないルームメイトから――
ティファがそんな風に思った時だった。同志の一人が、談話室を訪れた。
「カディス、セルトの記者が、インタビューをしたいと言って来てる。どうする?」
カディスはちらとティファを見た。
セルト、と言うのはカディスが再三、軍を引けと要請している先進国だ。カディスは既に実力行使に出ており、国際手配をかけられている。
「……話し合うことで、理解が進むと――何かが変わると思うか? ティファ」
カディスが言った。
ティファはまず驚いて、けれど、すぐにうなずいた。そうだ、こんなチャンスはまたとない。セルトの方から、わざわざ理解しようと働きかけてくれているのだ。応じない手はない。
「応じるべきです、カディス。我々の意思と理念と、切迫したカーマの実情を訴えなければ」
憎悪に憎悪で応えているわけではない。
餓死して行く同胞達を、指をくわえて見ていることなどできないだけだと。
「記者とは名ばかり、私の命を狙ってやってきた、スパイかもしれん」
カディスの言葉に、ティファはただ絶句した。
その様子を、カディスは微笑ましげに見ていた。
「何、神の加護がある。卑怯な者に殺されやしないさ、ティファ。やってみよう」
<2001.12.09 更新>
*
カディスは細心の注意を払って記者を隠れ家に招いた。
所持品の検査はもちろん、目隠しし、あちこち引き回し、2日もかけて招いた。
逃げ出さずにたどり着いた記者を見て、「いい根性をしている」と笑っていた。
暗殺者、あるいはスパイかもしれない、というのは全く冗談ではないのだ。カディスが命を張って、アルカイダの一構成員、若輩でしかないティファの意見を聞き入れてくれることに、ティファは感動さえ覚えていた。
他国には特に、カディスを野蛮で強引な無法者、と罵る者が多い。けれど、カディスはいつも最善を尽くして故国を守ろうとしているだけだ。法の上にあぐらをかく支配者達に、果敢に牙を剥くだけだ。
テロという活動で、罪もない人々を殺すと糾弾される。しかし、目の前で罪なき同胞たちが餓死していくのを見ているカディスにしてみれば、そんな糾弾は無意味なのだ。
そして互いに互いを理解しようとしないから、憎悪ばかりがふくらむ。
今こそ、その負の連鎖を断ち切る時だと、ティファは胸を高鳴らせていた。
このインタビューは成功させなければならない。
記者は真っ青な顔で、病気のようにも見えた。
「話が聞きたいそうだな。座って、まずは飲んで落ち着くといい」
カディスはまず、記者に飲み物をふるまった。
気の進まない様子の記者に、飲めと促す。
酒ではない。
もっとも、記者にしてみれば、毒殺されるのではないかと不安でたまらないのだ。こんなところで死んでしまっては、もう誰にも見つけてもらえない。
カディスはじっと、記者がそれを飲むのを待っていた。
冷静に考えれば、毒殺せずとも銃殺できる。毒を盛る必要はかけらもない。
ただ、信頼の問題なのだ。
最低限の信頼すら、こちらに持てない者なら。
カディスの言い分を、真実だと取れない者なら。話すだけ無駄だ。
まずは誠意を見せろということだ。話を聞きにきた、というのが嘘ではないと。
そして覚悟を決めろということだ。
まともな話し合いができる程度にしっかりしろと。
散々ためらった末、記者は出されたものを飲み、むせた。口に合わなかったようだ。
しかし、カディスはなお、記者がそれを飲み干すのを待った。記者がどうにかそれを飲み干すと、気持ち良く笑った。
「客人には苦いか?」
言いながら、カディスはその場にいた全員に同じ物を配り、座らせた。
自分自身もカップにそれを注ぎ、飲み干す。
「さて、話を聞こうか。何が知りたいのか、言いなさい」
インタビューは、通訳を通して行われた。通訳は向こうが用意していて、しかも、きちんとした通訳だった。ティファがここにいるのは、通訳を見張るためだ。
記者はアルカイダの目的、信念、理念、何を目指すのかなどを聞いた。
テロ活動に罪の意識はあるのか、あなた方の神はこれを許すのか、などとも聞いた。
ティファは正直、嬉しかった。
記者は彼らに興味を持ち、理解しようと努力しているように見えたし、カディスも真剣に、それに応えていた。
このインタビューが報道されれば、きっと何かが変わる。少なくとも、彼らの見方が随分変わるだろうと、期待した。
「……私にこの活動を促したのは神ではない。セルトだ。この活動に必要な資金を提供したのも神ではない。セルトだ。
身包みはいで冬の戸外に蹴り出すのは、盗みを促すためではないのかね?
産業を奪い、望まぬ競争を押し付け、敗走させ、雨の降らなくなった地に追いやり――一体、我々に何を期待したのか。この地で静かに朽ち果てることか?
そんな要求に、応じるわけには行かない。
我々は人間だ。臆病な鳥ではない。身を守るためには戦う」
「それは、目的のためなら武力行使も辞さないと、そういうことですか?」
記者の問いを、カディスは落ち着いた口調で肯定した。
「そうだ。我々は勇敢なる人間だ、家畜にはならない。
ところで、アルカイダの資金がどこから出ているか、御存知か? 私の私財も投じているが、セルトが十数年前、カーマがセルトの敵対国と戦うために回してくれた資金の一部も流用させてもらっている。旱魃や戦争で、大量の餓死者が出てもたいした援助はしてくれないが、戦争を行うためには、大金をはたいてくれたものだ――」
記者は驚いたようだった。
一方、カディスはここぞとばかりに調子に乗るでも、記者を笑うでもなかった。
全く感情的にはならず、淡々と語った。
「セルトはミサイルを撃つ、卑怯な国だ。
私は、数年前の戦争で、誰が何のつもりで妻を殺したのかすら知らない。自分の手を汚さず、自分の身を危険にさらすこともなく、摘み取る命の重みを感じることもなく――彼らは殺すのだ。人が増えすぎれば、戦争も起こるだろう。譲れないものもあるだろう。だが、どんな形での殺し合いであれ、摘み取る命の重みは知って、その罪を負って生きる覚悟でやるべきだ。私は戦時には、いつも前線で戦ったよ。戦士たちがどんな気持ちで殺し、殺されていったか知っている。軽はずみにそれを起こす気にはならんよ、知っていればこそな。
ミサイルだ……。目障りな相手を目障りだと、何を懸けることもなく、神にでもなったかのような傲慢さで、消しとばす。あんたらの生んだ戦争の仕方だ。それで、本当に戦争の酷さがわかるかね? 本心から、平和を願えるのかね?
そうだと言うなら、私はあんたらを尊敬しよう。ボタン一つで摘める命なら、私には、それが同じ、価値ある人間のものとは思えまい。きっと、自分の利益を守るためなら、平気で消し飛ばすようになるだろう。私はな」
記者は熱心にカディスの話を聞いて、最後には深く礼をした。名を明かし、またいずれ話を聞かせて下さいと言って、帰ろうとした。
ティファは静かに立ち上がると、記者に尋ねた。
「あなたは、アルカイダをどう考えますか? 悪だと?」
ティファがセルト語で話しかけたため、記者は驚いたようだった。それでも、しばらく考えてから答えた。
「あなた方の活動を、肯定することはできません。あなた方がやっていることは、やはり罪だと思います。ただ――我々にも原因があることは、わかりました。もっと平和に、歩み寄って行ければいいと願います」
ティファはにこりと笑い、そうですねと言って、記者を見送った。
何かが変わればいい。
そう切に願いながら。
何かが変わる。
甘い期待を抱きながら。
<2001.12.16 更新>
何も変わらなかった。
留学先に戻って、しばらく経った頃。
ある番組でアルカイダが取り上げられ、例のインタビューが報道されたのだ。
ティファは愕然とした。
その番組の大半は――いや、その番組は過激派の危険さ、撲滅の重要さを訴えるもので、カーマ政府のありようから、現状から、アルカイダの報復措置の様子から――彼らに不利なことばかり、集めていた。『何の報復だったか』にはほとんど触れない。インタビューなど、2時間は話したものを、放映されたのは数十秒だ。『武力行使も辞さない』『ボタン一つで摘める命なら、私には、それが同じ、価値ある人間のものとは思えまい。きっと、自分の利益を守るためなら、平気で消し飛ばすようになるだろう。私はな』そんな、そこだけ見れば、カディスが危険思想の持ち主にしか見えない部分を抜き出した、下らない放映だった。
悔しさと憤りに、ティファは血が煮えたぎる思いだった。
カディスは――。
彼の命を狙って来たかもしれない者を、それでも話を聞きたいというから、相互理解につながるならと――ティファの願いに答え、応じてくれたのだ。それなのに。
慎重に、大変な手間をかけて記者に会い、真剣に応じてくれたのだ。それなのに。
茶番劇だった。
彼らには、もとより相手を知る気も、理解する気もありはしなかったのだ。
知るためのインタビューではない。
カディスの言葉じりを捕まえて、危険思想の悪役に仕立て上げるためのインタビューだった。
「武力行使も辞さない」
その言葉は大いに誇張して、しつこく報道している。
だが、肝心の彼の主張など、なぜ武力行使も辞さないのかなど、全く報じようとしなかった。どうでも良かったのだ、彼らにとっては。真実も、誰がどう苦しみ、必死であるかも。
カディスを糾弾する理由さえ手に入れば、それで良かった。手を貸してしまった。
ティファは顔を覆った。悔し涙さえ溢れた。
彼はやけになって酒を飲み、急性アルコール中毒を引き起こし、病院に担ぎ込まれた。
*
気が付くと、知った顔があった。
カディス……?
こんなところにいるわけがない。まだ、夢か……。
ぼんやりとそんなことを思っていたら、怒鳴りつけられた。
本当にカディスだった。
「カディス!?」
「何をやっている、おまえは。おまえに注ぎ込んだ留学費用を無駄にする気か」
意識がはっきりしてくると、ティファはカっと顔を赤くして、カディスから目を逸らした。
「下らない報道だったな」
「……」
何も言えず、ティファはただ唇を噛みしめた。
「おまえもな」
ティファはぎゅっと掛け布団を握り締め、うつむいた。
「あんなものだ。やつらに人の言葉など通じない。彼らにとって言葉というのは、理解し合うための道具じゃない。勝つための、大義名分を仕立て上げるための、一つの材料に過ぎん」
「……」
「それでいいのか」
黙り込むティファに、カディスが言った。
「ティファ、一度挫けたくらいで見失うなら、そんなものは信念と呼ばん。ただの思いつきだ。理解し、話し合うことで、何かが変わると思いついた――。それだけだ」
ティファは驚いてカディスを見た。
「少しは考えたのか、何が悪くて通じなかったのか。次はどう話せば、理解されるのか。考えたようには見えないが」
痛いところを突かれ、ティファは苦い顔をした。
「か……考えていません……」
「そんなところだな」
なぜなのか。無駄な茶番につき合わせ、無駄な手間をかけさせ、無駄な危険を冒させたのに、そのことについて、カディスは一言も彼を責めなかった。
「……カディスは……まだ、やり方次第で理解し合えると……?」
ティファが掠れる声で問うた途端、カディスは遠慮もなくティファを笑い飛ばした。
「思うわけないだろう。私は、やつらは獣以下だと信じて疑わん。人の言葉など通じない、天使とやらの仮面をかぶった悪魔の群だ。今までも、今もそう思っている。だからこそ、今のアルカイダがある」
ティファは呆けたようにカディスを見た。
「もっとも、居合わせたおまえにはわかるだろうが、例のインタビューには真剣に応じたぞ。おまえが信じるなら、付き合ってやろうと思った。だからだな」
一体、今日何度驚かされただろう。形ばかりでも、上辺でもなく。カディスほど、真に自分と異なる他人の意見を尊重する者が、どれだけいるのだろうか。
「下らんぞ、ティファ。おまえも男なら、私に負けていてどうする。相互理解がカーマを救うと思うなら、やってみろ。私の鼻をあかしてみせろ。若者が、それくらいの覇気もなくてどうする」
……。
その通りだ。
いつまでもカディスの足手まといでは仕方ない。いつまでも、半人前なんてごめんだ。
だいたい、自分は見ていただけではないか。
今回、実際に話し合ったのはカディスで、ティファはそれを見て、勝手に感動したり、結果に腐ったり、見物人でいただけだ。本当に下らない。自分では何もしないうちから、投げ出すなんて。
「全くです。僕が下らなかった。カディス……もう一度でいい、チャンスを。まだやれます。航空機の操縦法も修めてみせます、必ず!」
カディスは機嫌良く笑うと、いきなり、幼馴染にアレイゼ・リーラで花を贈ったろうとティファを冷やかした。
「――な、何で知ってるんですか!!」
「女はおしゃべりだ」
だからって、セシルはカディスと面識すらないのに、どういう経路でそういうことが漏れるのだ。これは、相当な人数知っているということだ。最低でも、セシルからカディスにつながるくらい。
――最悪だ。
「待たせている女がいるなら、命は大切にしろ。この程度のことで無駄にするなよ」
「〜」
ティファは深々と嘆息した。セシルと一緒になったら苦労しそうだ。別にいいけど。
「……あれ? でもカディス、どうしてここに?」
「うん? おまえが急性アルコール中毒で倒れたと聞いたから……」
「国からここまで!?」
カディスはにやっと笑った。
「こちらに、用事はあったからな。急な予定変更になったが……お尋ね者だ、そのくらいの方がいい」
だからと言って、出国にはだからこその周到な準備が必要なのに。
ティファは内心、心底カディスに感謝した。
「他の皆にも?」
「ああ、会って来た。おまえで最後だ」
カディスはすぐに行ってしまったが、十分だった。おかげでティファはすぐに立ち直り、前以上の熱意でことに当たり始めた。
学問の方は、言葉の壁を補う熱意で順調に修めていったが、『話せばわかる』という思いは、なかなか確信にはつながらなかった。
ただ、色々なことがわかるようになった。
例えば話して、わかったと言ってもらえても、案外わかってもらえていないこと。理解度の見分け方。
話を聞いてもらうには、まずこちらが譲って聞いてやること。
けれど――思想を変えるに至る相互理解など、夢かもしれないと、信念はぐらつくばかりだった。
セルトの人々も、決して楽ではないのも知った。
ここは憑かれた国だ。
この国の人々は、麻薬なしではいられない。クーラーなしでもいられない。文明の恩恵に預からずしては、生きていけない体になってしまっているのだ。
その上、豊かなのは中流以上の家庭に限ったことで、競争に敗れた者は、ひどい生活をしていた。不安な明日。見えない明日。凶悪犯罪も多発している。
これ以上悪くなりたくないと、搾り取られてたまるか、這い上がってやると、終わりのない競争に戦々恐々としている。人を出し抜くことばかり考えて、神経がすり減りそうだ。
強者が弱者を好きにするのは、対外的な部分に限ったことでなく、この国の体質なんだと痛感した。カディスの言う通りだ。カーマをこんなふうにはしたくない。
疲れる。
天使のように優しい人も、誇り高い人も多くいる。けれど、疲れる。
彼らが憎いわけじゃない。
ただ、カーマをこんなふうにはしたくない。
ティファは強く思うようになった。
そして、一抹の不安――絶望を抱えるようになった。
カーマを救う道が見えない。
カディスの活動も難航している。
カディスの運動は、この場所から見ると、無法で邪悪な破壊でしかありえなかった。表面しか見えず、声明は届かない。
それでもティファは学んだ。
約束した、ちゃんとした花束を贈るために。
道が開けることを願う。その力がこの身にあると信じる。
絶望に侵されそうになる時には、信仰のありがたさを痛感した。
もはや、それだけが支えだった。
未来の見えないこの国で。
<2001.12.30 更新>
その年。
大きな旱魃が、カーマを襲った。
先進諸国は助けてくれなかった。
正確には、多少の援助や個人的なボランティアはあった。
しかし、それはカディス個人が組織したものとさほど変わる規模ではなく、何百万ものカーマの人々が飢餓にさらされ、何万という単位で餓死者が出た。
「フィル……が……?」
ティファの実家はケシを作っていたが、国際的な非難を受け、数年前に禁止令が出てからソバに切り換えていた。
しかし、ソバがもたらす収益では、一家が食べるだけで精一杯だった。特に作り始めの今はうまくなく、蓄えを削るしかない状態だった。
そんな最中の大旱魃で、末の弟が死んだと、家族からの手紙に記されていた。
ティファに一番良くなついていて、ティファが留学する時には、泣き叫んでいやがった、弟だった。
手紙を強く握り締め、ティファはただ、顔を覆った。
わき上がる、憎悪。
逆恨みだとわかっているのに、抑えられない。
ケシの栽培が禁止されていなければ。
この国が、大がかりな援助をしてくれていたら。
逆恨みだ。
ここへ来て学ぶうちに知った。
当たり前だと思っていた、『大家族』を作るカーマの伝統自体が首を締めること。
世界は飽和している。
人間であふれている。
これ以上増えても、増えた人口分の穀倉地帯が足りないのだと。
たとえ生産性の高い土地を奪い取っても限界はある。
人為的に人口調整するか、弱い者から死んで行くか、どちらかしかないのだ。
カーマ自体が変わる必要を、ティファはこのところ、確かに痛感していた。
けれど。
この大旱魃自体、人為的に引き起こされた異常気象の一端ではないのか。
痩せた土地に追いやられているからこそ、大家族が作られたのではないのか。一人当たりでなく、全体の生産性を上げるために。
それは結果的に一人当たりの生産性を低下させ、さらなる窮状につながる悪循環であったのだけれど――。
それからしばらく、ティファは絶望と無力感、憎悪と混乱の渦の中にあった。
休暇を利用して、ティファは再度、カーマに戻ってきていた。弟の墓参りをしに。
「旱魃は怖いね。今度は、あたしが死ぬかもしれないんだね――」
どうにか食いつなぎ、しのいだようだったが、セシルも随分痩せた。
そんなことにはしないよ、と言いたくて。
けれど、何もできずに弟を死なせたティファに、言えることは何もなかった。
彼女が寂しげに花を供えるのを見ながら、ティファはふと気が付いた。
何もできない身で、なお彼女を死なせたくないと、何とかしなければと考えて、ふと気が付いた。
『先進国』というのが何なのか。
カディスはセルトの人々、そして異教徒達を悪魔の群と呼ぶ。
ティファも留学したばかりの頃はそう感じた。道徳の乱れ、彼らのやりように目を奪われ、悪魔の集団だと。
けれど今、ティファはセルトの人々を、文字通り『進んだ人々なのだ』と理解した。
先に人口の飽和を経験した彼らは、愛する者を失いたくない一心で、生き続けたい一心で、先住民や環境、これを侵略しながら生きる技を編み出した。生産性を高めようと進めた技術の余波が、モラルの低下を生んだ。
同じ生き物だったのだ。
彼らを彼らにしたのは、この思いだったのだ。
相互理解の限界。
十人の人間がいて、九人分の食料しかなかったら、理解は何の役にも立たない。
そして、戦いになる。
そんなことは知っていた。
カーマと近隣諸国は、それでずっと、少ない豊かな土地を巡って争ってきたのだから。
ただ、セルトも同じなのだということには、気付かなかった。
違うのはただ、セルトが『悪魔の技』を持ってしまった集団だということ。
手にした強大な力に奢り、敗北と痛みを忘れ、心をなくした集団。
だから個人を見ればいい人たちだった。
もとは同じ生き物だったのだから。
ただ、持ってはならない力を持ってしまった、文明に憑かれた人々。
それはカディスの言う『悪魔の群』と大差ないのかもしれない。
戦い、故郷を守らなければならない。セルトの人々の、彼ら自身の生活のための侵略から。
知らしめなければならない。彼らの力が『悪魔の技』であること。
それ以外、守りたいものを守る術がないのだから――
「ティファ?」
黙り込んでしまったティファを、セシルが不思議そうに見た。
ティファは静かにセシルを見、その肩を抱いてつぶやいた。
「きっと、君に未来を――」
<2002.01.06 更新>
ついに、状況は何一つ好転しなかった。
留学を終え、帰国した同志を迎えるカディスの顔は苦い。
けれど、むしろ彼の元に集った者たちの方が、カディスに先に笑いかけた。
いいのだと。
状況を変えられなかったカディスの無力より、旱魃の際に突きつけられた、『国際社会は決して彼らを救わない』という事実。
それへの失望が深い。
状況は結局、自分たちの手で変えるしかないのだと、彼らは考えた。そう考える者がそこに集った。使命感に燃える者達が。
宗教的使命感ではない。
『神の国を守るため』
確かにそう言い合う。けれど、神の国とはありのままのカーマであり、それはつまり、『故国と家族を守るため』に他ならない。
そんな彼らは、そのための力を育んでくれたことで、むしろカディスに感謝していた。
カディスは、計画の決行を宣言した。
狙いは11箇所。
セルトの政治中枢。
軍事中枢。
貿易の要、世界貿易センター。世界の人々に、事態を他人事ではないと、深刻に受け止めさせる目的もある。これだけの破壊が実現すれば、さしもの無関心な人々も、何が彼らを駆り立てたのか、知ろうとするだろう。
そして、原子力発電所。
人が管理するものに、絶対の安全などありえない。原子力など人の身には余ると、知らしめる。
カディスは次々目的地を挙げ、詳細な手順を指示していった。
ティファは原子力発電所を希望した。
成功しても失敗しても、二度と生きては戻れない。
二度と――。
*
決行の3日前。カーマで過ごせる最後の日、ティファはセシルを丘に誘った。
「ティファ、かっこよくなったのね。見違えたわ」
何も知らないセシルの笑顔が、胸に痛かった。けれど、ティファは穏やかに言った。
「セシルはあまり変わらないね。特に中身……」
「当たり前よ! 政府の監視が厳しくなって、家から出られやしないもの。テレビも見られないし、変わりようがないわ」
あーあと、たまらないわと、セシルは少し悲しげにティファを見た。
セシルも、学校に行きたかったのだ。
留学までしたティファがうらやましいのだろう。
カーマに戻る度にティファはセシルに会って、カーマのこと、セルトのこと、二人で飽きもせずに語り合った。お互い、相手の話に興味があった。
それも今日限り――。
ティファは用意していた花束を、静かに差し出した。
「プロポーズ?」
にやにやしながらセシルが尋ねる。嬉しそうだった。
ひどく胸が痛んだ。それでも、ティファは静かにかぶりをふった。
「ごめん、違うんだ。多分、もう二度と会えないと思う」
一瞬の、沈黙。
セシルの顔が強張る。
「……どうして……!? 何で!? す、好きな人、好きな人がいるの!? あたしじゃないの!? セルトの、セルトの人……?」
「ちが――」
「いやよ!!」
ティファの言葉を待たず、セシルは泣き叫んだ。
「ティファはいいよ!! いくらでも、誰にでも会えて……!! でもあたしは、あたしには、ティファしかいないのに!! 何で!? セルトになんか行かないで! セルト、嫌いって言ってたじゃない!! 行かないでよ! 行くならあたしも連れてってよ!! こんな国に……こんな国に置いてかないで!!」
「セシル……!?」
ティファは愕然としてセシルを見た。
「何……?」
ひっくひっくとしゃくり上げながら、セシルがティファを見る。
「セシルは……セシルはカーマが嫌いなのか!」
「嫌いよ!!」
セシルの叫びは、ティファの胸に鋭く突き刺さった。
「自由もない、食料もない、ここに何があるの!? ティファだけよ! ティファがいるから、だから、それでも我慢してたのに……っ……!!」
ティファはただただ愕然とした。頭の中が真っ白だ。
彼女のためだと信じて――ずっと、信じていた。
自分と彼女の故国を守るため――。
「ティファ!!」
セシルの声にびくりとし、ティファはつぶやくように、言った。
「……大きな計画に……参加する。多分、死ぬと思う……」
セシルは呆けたようにティファを見た。
「……う……そ……」
「――そのために、留学してた――。セルトの原子力発電所を爆破するんだ。逃げる方法はないから……一緒に、吹き飛ぶ……」
「嘘!!」
嘘じゃないと首をふると、セシルは壊れたように、首をわずかに傾げてティファを見た。
それから、呻くような震える声で、
「あの人は……カディスは、気が狂ってるわ」
そう言った。
「狂ってなんていない!」
「狂ってるわよ!! そんなことして、何になるの!? ティファの命を何だと思っているの!? 狂ってるのはセルトじゃない、カディスの方よ!!」
違うと一声叫び、ティファはつらい気持ちでセシルを見た。
「君が言ったんだ、自由も食料もない! そう、言った! それを取り戻すために……!! それを取り戻すためだ!! 今のままじゃ、次の旱魃の時、僕には君を守る術が何もない! 旱魃は必ず来る。やつらが必ず呼ぶ。やるしかないんだ!」
どうしてたった一人……たった一人、セシルすら、わかってくれない!?
彼女のためなのに。
もしかしたら、本当に、まるで彼女のためになっていないのか。
守るつもりで、気が付かないうちに、追い詰めていたのか。
「い……いらない……じゃあいらないから! いらないから行かないで!! ティファがいてくれたらいい!! ……だから……だから行かないで!! 旱魃なんて来ないわよ!! 神様が……神様が助けてくれるもの!! ……お願いよ……行かないで……」
「……そんなこと……」
神が……?
助けてくれるものか。
もし助けてくれるなら、フィルはどうして死んだ?
それでも細く震えるセシルの肩が、これ以上ないほど彼を引き止めた。
そして、細すぎるセシルの肩が、逆に彼を駆り立てた。
「……好きだよ、セシル。だけど……僕はもう、家族が死ぬのを、指をくわえて見ているのはいやだ! ごめん……。さよなら、セシル……」
「ティファ!!」
逃げるように背を向けたティファを、セシルの叫びが打った。
「馬鹿あぁっ!!」
ティファは丘を駆け下り、二度とセシルに会わないまま、出国した。
<2002.01.13 更新>
手が震える。
初めて人を殺したティファは、それでも仲間と共にコックピットを封鎖した。
カディスの指示通り、旅客機をハイジャックした。
大勢の人間が乗っている。
わかっている、そんなこと。
わかっていた、そんなこと。
ふいに、通信が入った。カディスだった。
「ティファ、マリス達が失敗した。標的を変更する――原子力発電所を改め、世界貿易センターに!」
どくんと、心臓が跳ねた。
世界……貿易センター……。
旅客機の乗客どころの騒ぎじゃない。どれだけの人が……。
「――はい!」
ティファはすぐさま頭を切り換え、仲間にカディスの指示を伝達した。
今、一人殺して動揺しただけだ。覚悟は決めている。考えるだけ無駄だ。もう、止まれないのだから――
ティファ達がハイジャックした機は順調に進んだ。
ついに、ビルを視界に捉えた。
ティファは胸を押さえた。
何を恐れているのかわからない。
殺すことか、死ぬことか、それとも、取り返しのつかない過ちを犯そうとしていることか――。
迫る、標的。
『私の鼻をあかしてみせろ!』
――!!
いつ見失った?
わかり合うことで、何かが変わると――
その信念を、いつ、見失った?
ビルに、フィルとセシルがいるような錯覚を覚えた。
たとえ罪なき 愛しき同胞たちを殺されても
仇のそれを殺せば それは罪
神よ
私は罪を犯し あなたの国を乱すでしょう
それでも――
己が罪に心引き裂かれ、地獄の炎に焼かれようとも
あなたに与えられた ただ一つのものを守りたいから――
ああ、と。
ティファはふいに、何が恐ろしかったのか、理解した。
多くの夢と命を手にかけること。
罪を犯すこと。
この命一つでは、とてもあがなえまい。
それでも――
セシル――!!
旅客機はビルに真正面から衝突し、大破、炎上した。
ビルは粉々に崩れ落ち、多くの命と共に、失われた。