お兄様のことが好きですか? 【絵】イシガミ様

■ 第三節「死霊術師」 ■【第三章】雪月花の物語

ツンデレゼルダとヤンデレヴァン・ガーディナだなぁと思っています。

やったー☆☆☆
可愛いヴァンゼルを頂きました! イシガミ様、ありがとうございますvV(≧∇≦)ノ

ていうか、その反応はまずいってゼルりん!
次のコマで、お兄様に襲われるかもしれないよゼルりん! ← 貴腐人の妄想
ゼ「なんで!?( ̄ロ ̄lll)」

喜びのあまり、御礼の番外編など書いてみました♪(*^∇^*)
ゼ「御礼って、何この私のアホさ加減! 恩を仇で返す真似はやめて!?」


 ドサドサドサ

 書簡と資料の山を、まるで、物置か、ごみ置き場あたりと間違えているかのように、ヴァン・ガーディナがゼルダの机にドサドサ積み上げた。
 手が滑って落としたわけでは、断じてない。
 しかも、ゼルダが書面を作っているところにだ。
 読んでいる資料の上を狙って居座りたがる、猫の親戚かもしれない。
 あえて邪魔をする、この、悪の兄皇子めガッ!
「兄上、何をなさ――」
「ゼルダ、それ、今日中に終わらせるように」
「……は?」
 それって、どっち?
 たった今、邪魔してくれた仕事か、まさか、ドサドサ寄越したこれぇえ!?
 いやいや、ないだろう。
 あり得ない。
 さすがの悪の兄皇子だって、これを一日でどうにかしろなんて、言わないはずだ。
「じゃあ、頑張って」
「あの、待って! それって、ルディア湾の件ですよね? それなら、午前中で終わるつもり、です」
「ルディア湾?」
 兄皇子が無駄に、魂を抜かれるほど綺麗で優しい微笑みを浮かべながらゼルダを見た。
 この場には、激しく似つかわしくない。なんという、優雅な立ち居振る舞い。
「まさか。それ、全部だよ。十五歳の頃の私でも、アルディナン兄様でも、それくらいは終えられた。兄弟のおまえに、できないのか?」
 悪の兄皇子ときたら、それはもう、楽しげな笑顔だ。兄皇子は今日も、ゼルダいびりに余念がない。いたいけなゼルダを苛めるのが趣味の、魔王の申し子めガッ!
「やれ」


 兄皇子はゼルダの書斎を出て行ってしまった。
 取り残され、ゼルダは魂が抜けたように、ぼう然とした。
 やがて、ゼルダは一縷(いちる)の望みにかけて、書簡の封を切った。
 案外、目を通して判を押すだけの、簡単な仕事だとしたら、今日中でも何とか――
 書簡で来る仕事は、目を通してみないと、かかる時間はわからない。
 でも、それがわからない兄皇子だろうか? 書簡、こんな山積みで、簡単な仕事ばかりだなんて、ほとんど奇跡だ。それ一件で、何日もかかるような仕事だって、紛れているはずだ。
 一通、二通、三通と開封して、ゼルダは机の上をひっくり返したくなった。
 簡単どころか、今日中に終わりそうな仕事なんて、一件もないんですけど!
「なんで、嘘、終わるわけないでしょう!」
「ゼルダ皇子?」
 ルディア湾の件について、ゼルダの指示を仰ぎに来た者が、首を傾げた。
 駄目だ、駄目だ。
 こんなことをしていたら、午前中で終わるはずだった仕事まで終わらなくなる。
 泣きそうになりながら、ゼルダはとにかく、書きかけの書面を掘り起こして、震える手と、動揺する頭で、どうにか書き上げた。
 何とか、予定通りにルディア湾の件は片付けた。
 だけど、これどうするの!?
「――兄上!」
 ゼルダはもう、ほとんど泣きながら、どう考えても、一日では終わらない仕事についての書簡を何通か胸に抱えて、兄皇子の執務室に出向いた。
「これとか、これとか! 無理です、一日とか、無理ですから!」
「おまえな」
 失望も露に、ヴァン・ガーディナが大袈裟な溜め息を吐いた。
「そうか、ハンデだろうな。私とヴィンスがまともに競ったのでは、勝負にならない。マリでも、これくらい今日中に終わるのに、終わらないおまえを足手まといにつけて、父上なりに、この試験のバランスを取られているんだな」
「なっ……!」
 ゼルダはキっと、兄皇子を睨んだ。
「終わらない! 兄上は、書簡の中身を読まれてもいないのに! ねえ、読んで! これとか、これとか!」
 パシっと、書簡を読ませようとするゼルダの手を、兄皇子が邪険に払った。
「おまえが終えられないのはわかったよ。だからと言って、おまえの無能のつけを、すべて、兄上様に支払わせるつもりなら――」
 ヴァン・ガーディナが冷たい微笑を浮かべて、ゼルダを見た。
「どうしたらいいのか、私に土下座して頼んだら教えてやるよ。――どうする?」
 どうするも、こうするも――
 ゼルダは鋭い目で兄皇子を睨んで、啖呵(たんか)を切った。
「それ、兄上の間違いだったら、どうして下さるのですか! 土下座して頼んで、今日中に終えられるって、兄上の間違いだったら!?」
 ヴァン・ガーディナは不敵に笑うと、かぶりを振った。
「間違いじゃないよ。だが、そうだな。その時には、アルディナン兄様のことで、おまえが知らないことを教えてやるよ」
 ゼルダは驚いて、ヴァン・ガーディナを見直した。
 ――アルディナン兄様のこと?
 ゼルダは絶対、ヴァン・ガーディナの間違いだと思う。
 書簡を読めば、兄皇子だって、それと認めるしかない。
 ヴァン・ガーディナの間違いなのに、土下座なんてまっぴらだけど、でも、それで、大好きだったアルディナンのことを聞けるなら――
 石の床に片手をついたゼルダが、なおも、ためらう様子を見せると、微笑んで、ヴァン・ガーディナの方が譲った。
(ひざまず)いて、私の手の甲にキスしたら、それでもいいよ。ヒントをやるから」
 言われるままに跪き、ゼルダは尊ぶようにヴァン・ガーディナの手を取って、その手の甲にキスした。
 こんなことが、珍しくもなくて。いつの間にか、慣らされている。
「おまえ、誰にも相談してないだろう。おまえが私の補佐官なのであって、私がおまえの補佐官なわけじゃないって、わかってるか? おまえの他にも、この程度の仕事が一日で終わらないとか言う馬鹿がいたら、兄上様に報告しなさい。そういう馬鹿はクビだ」
「なんてことを!」
 ヴァン・ガーディナが麗しく、にっこり笑う。
「よかったな、おまえはどんなに無能でも、おまえを指導しろというのが皇帝陛下のご下命だから、クビには出来ない」
「誰が無能ですか、この有能なゼルダをつかまえて!」
 ヴァン・ガーディナの指先が、ゼルダの喉元や横顔に遊んで、どうかすると口付けが降りる。それも、珍しくはない。
 この人、自分の方こそ、ゼルダは補佐官なのであって、ペットでも愛人でもないって、わかってるのか。
「で、誰かに相談したのか」
「……」
 してません。
 いや、だって、あんまりにも無理だから!
 こんなの相談しても、誰が見たって出来っこないから!
 ゼルダはふくれ面しながらも、兄皇子の執務室から退がった。
 ここで、兄皇子と押し問答していても始まらない。
 
 
「兄上が、私が馬鹿じゃなければ、今日中に終えられるって仰るんですけど……どう考えても、無理ですよね? これとか、これとか。今日中に終えられる方法なんて、ご存知の方、いらっしゃいますか?」
 頭を突き合わせて書簡に目を通したライゼールの役人達が、顔を見合わせる。
「ヴァン・ガーディナ殿下が、『今日中に終えられる仕事だ』との、仰せなのですか?」
 そうなんですと、ゼルダが口を尖らせてうなずくと、慎重な様子で黙考していた別の役人が、口を開いた。
「それで、私達に相談しろとの、仰せなのですな?」
「ええ、そうです」
 怪訝そうに、それ、関係あるのかと目をぱちくりするゼルダに、年長の役人が重々しくうなずいて、結論を述べた。
「我々に仕事を振る仕事を、殿下に任されたのではありませんかな。仕事を振るだけなら、極端な話、あみだくじで振れば、すぐにも終わるでしょう。その振り方が適切とは、とても申せませんが」
 目から(うろこ)とはこのことか。兄上ったらほんとにもう、という格好で組んでいた腕が、恥ずかしかったり。
「えぇえ! だって、私にやれって……! でも、あ、そうか。私は兄上の補佐官で、領主って、こういう仕事、自分でやるわけじゃないから……兄上の仕事は、仕事を振ることだから……あぁああ! く、その通りです!」
 何という、意地悪の極致!
 可愛いゼルダが勘違いしてること、悪の兄皇子は絶対にわかってたのに、なぜ一言、それならそうと教えてくれないの!?
「あの、ありがとうございます! 改めて、検討します……」
 言ってから、ゼルダはぽんと手を打った。
「あ、そうだ。今、見て頂いた案件で、任されて下さる方は、名乗り出て下さい」
 ライゼールにどんな部署があって、誰がどういう仕事をしているか、まったく、把握していないわけではないけれど。
 まだ詳しくは、把握していない。
 書簡を回覧してもらって、担当したい仕事を申請してもらうべきか、ゼルダの方で、適切と考える部署に振ってしまうべきか。――だいたいで?
 うん、やらなきゃいけないこと、結構あるけど、メドは立った。何をすれば、今日中に終わりそうなのかはわかった。
 そういうことなら、巧みな手配をして、ゼルダの賢さを兄皇子に見せつけてやりたい。ぎゃふんと言わせてやりたい。
 
 かくして、ゼルダの目が回るほど忙しい午後が、幕を開けたのだった。
 
 
「むぎゅ」
 夜も遅くなって、うつらうつらしていたゼルダは、頭を机に押さえつけられて、妙な声を上げた。
 こんな真似するの、兄皇子だけだし。
「私は、帰邸するよ。終わるまで頑張って」
「えぇ!」
 びっくりして、ゼルダは途端に目が開いた。
「そんな、帰ったら駄目! ゼルダが終わるまで待って! 兄上がやれって言ったのに、まだ、ゼルダが頑張ってるのに!」
 頭の方は、やや寝ぼけているようだ。
 ヴァン・ガーディナがゼルダの襟首をつかみ上げて、なめらかな首筋にキスすると、びくっと、ゼルダの身が震えた。
「んっ……」
 それでも、文句を言ったら帰られると思ってか、うらみがましい目をしながら、黙って耐えている。いろいろな意味でつらいのか、目が潤んでいる。
「そこにいて、帰らないで! 兄上が帰邸した後で、ゼルダ、わからなくなって、どうにもならないかもしれないの!」
 それぞれの役人も、ほとんど帰ってしまって、ゼルダは取りまとめを一人でしていたところだ。
 大事なのに、聞き忘れたことも、後から、後から出てきている。
 ゼルダが聞き落とした分もあるし、聞かれたことに、相手が正しく答えていなかった分もある。
 終わりそうで終わらないし、疲れたし、ここまでやったのに、時間切れであみだくじはあんまりだ。
「帰らないで!」
 泣きそうな、というか、泣いているゼルダを少し眺めて、ヴァン・ガーディナがもう一度、ゼルダの首筋に口をつけた。
「ふ…ぁっ……」
 切ない吐息を漏らしたゼルダが、悲しげにヴァン・ガーディナを見た。
「なに…するの……?」
 ゼルダの言うこと、聞いてないのと。
「あと半刻だけ、待ってやるよ。それで終わらなかったら、帰るから」
「あ、終わる! そこで待ってて。兄上、もう終わったんなら、兄上の執務室には、戻らなくていいでしょう?」
「ふうん? 私がいて気が散らないの」
 こくと頷いたゼルダが、何だか気張った顔で、机に向かい直す。
「もう少し! 兄上のゼルダが、優秀な手配をお見せしますから!」
 くすっと笑って、ヴァン・ガーディナはにこにこゼルダを眺めた。
 この子、アホで面白い。


「でき、たぁ!」
 ちょうど、半刻後。
 叫んで、万歳したと思ったら、ゼルダはそのまま机に突っ伏した。
 限界だった様子で、ぐったりと眠り込んでいる。
 ヴァン・ガーディナはそのゼルダを抱き上げて寝室まで運ぶと、宿直の衛視に歩哨を命じて、ゼルダが仕上げた手配書に目を通した。
「頑張ったな、よく出来てるよ」
 眠っているゼルダに声をかけ、ご褒美、とゼルダの額に優しいキスを落とすと、ヴァン・ガーディナは静かにゼルダの寝室を後にした。
 ゼルダの邸宅では、妃たちがゼルダの帰りを待っているだろう。ゼルダは帰るつもりだったから、使いを出していないはずだ。
 ヴァン・ガーディナは最後、ゼルダの代わりに、今夜は帰れないと伝えるための使いを出した。夜空には、煌々と十六夜の月が輝いている。
 時間も遅いし、ゼルダの寝 顔が可愛いし、彼も領主館に泊まろうかなと、思わなくもなかったけれど。
 魔が差して、こんな夜に襲ったら、さすがにゼルダが可哀相だろう。
 ヴァン・ガーディナは静かに、月夜の領主館を後にした。

● あとがき ●
――ぐはっ。
しまった、ツンデレじゃないです、これ。
小判ねーさんに、「見なさい、ただのデレじゃない」って言われます、これ。
眠たいゼルダは可愛いです。
覚醒している時は、頑張ってつんつんしているようです。
『ここでつんると兄上にきらわれ……いや! それじゃまるで、兄上にきらわれたくないみたいだし!』とか、胸の内で、葛藤が絶えないゼルりんです。
うっかり「兄上なんて、好きじゃないです!」とか言ってるのを、その兄上に聞かれてしまうと、右往左往して、兄上に許してもらえるまで大変なのに、懲りないゼルりんです。